2019.02.13

“ANGEL VOICE” 古谷野孝雄先生
レジェンドインタビュー

高校サッカー感動巨編、「ANGEL VOICE」の古谷野孝雄先生が帰還!!
チャンピオン各誌で華々しい活躍をみせた先生に、当時の思い出など貴重な話を聞くことができたぞ!!

プロのマンガ家になるため上京した大学時代

高校サッカーを舞台に、弱小公立校の躍進と選手たち一人ひとりの成長(敵チームの選手の成長も!)を描いた大河スポーツマンガ『ANGEL VOICE』の作者、古谷野孝雄先生に話をうかがった。
「マンガを読みはじめたのは、小学校低学年だと思います。当時は友だちの家で読ませてもらってました。その後、『ドカベン』をきっかけにチャンピオンを読むようになって、小学校の後半、五、六年生の頃には『ドカベン』や『ブラック・ジャック』、『がきデカ』や『マカロニほうれん荘』に夢中になっていましたね。自分的には、その頃のチャンピオンがピークですね。間違いなく、日本でいちばんおもしろい雑誌でした」

岡山でチャンピオンを熱心に読んでいた古谷野少年は、やがて東京の大学に進学する。上京した理由はもちろん『プロのマンガ家になるため』である。
「出版社って、東京に集まってますよね。(マンガ原稿を出版社へ)持ち込みに行くのにも関東の大学のほうが便利だろうということで、上京しました。何度か持ち込みに行くうちに担当がついて、描いたものを賞に応募したところ、賞をいただきました(第33回週刊少年チャンピオンまんが賞に『BADBOYフリーダム』で奨励賞を受賞)」

その後、熱血不良少年マンガの巨匠、石山東吉先生のアシスタントを経て、24歳のときに月刊少年チャンピオンで連載デビューを果たす。
「当時はスタッフもいなくて、ひとりで描いてたから大変でした。そうだ! 確か、大学の卒業式と月チャン(月刊少年チャンピオン)の締め切りが重なってたから、卒業式にも出られなかったんですよ。たぶん、卒業はできていると思うんですけど(笑)」

偶然観た一本の映画が大作誕生のきっかけに

その後、古谷野先生は月刊誌を中心に活躍、とくに高校野球を題材にした『GO ANd GO』は足かけ11年、単行本にして30巻というロングセラーヒットを記録する。さらに週刊少年チャンピオンに舞台を移し、満を持して発表された作品こそが、高校サッカーマンガの名作『ANGEL VOICE』である。
わけあって集められた千葉県最強(ただしケンカで)とよばれる四人を軸とする急造チームが、全国大会常連校をはじめとするサッカー強豪校相手に奮戦するこの作品は、手に汗握る展開とリアルなディテールから、マンガ好きのみならずサッカーファンからも熱い支持を受け、大きな話題をよんだ。そんな、この作品の誕生には、実は偶然に家のテレビで観た一本の映画がきっかけになっていると古谷野先生は言う。

「『スクールウォーズ』という映画を知っていますか。テレビドラマじゃなくて映画のほう(04年公開の劇場用映画『スクールウォーズ・HERO』のこと)なんですけど、こういう話を自分なりに描いてみたいと思ったのがきっかけです。最初、テレビでたまたまやってるの観たのかな。『あれッ、おもしれェ』と思って、DVDで買って観直して」『スクールウォーズ』同様、『ANGEL VOICE』もまた、不良生徒がたむろする高校に、かつての元名選手だったひとりの教師が赴任してくる、というところからドラマははじまる。もちろん、『スクールウォーズ』と大きく違うポイントもある。それは、冒頭の一話目から、のちの展開を大きく左右する《ある事件》の存在が暗示されていることである。
「『スクールウォーズ』、話は全部、知ってるんですよね。昔のテレビドラマのほうも観てましたし。知ってるけど、知ってて観てもおもしろいんです。だとしたら、かりに読者が結末を予想できるマンガを描いたとしても、おもしろければイケるんじゃないかと思いまして、それであの一話目になったんですよね。
『スクールウォーズ』って、ある生徒が出てきた瞬間、視聴者の誰もが『あ、この生徒って確か死ぬよな』ってわかるキャラがいるわけじゃないですか(笑)。わかっていても、それでも映画はおもしろかったんです。だったら、こっちももう最初から出していこうということで、一話目のしょっぱなに、そのシーンを描いたんです。 そのあと、実際のそのシーンにたどりつくまで、連載が続くかどうかは不安でしたけどね」

古谷野孝雄●こやのたかお

石山東吉先生のアシスタント出身。
1995年に月刊少年チャンピオンにて「GO ANd GO」の連載を開始、
全30巻の大作に。「ANGEL VOICE」の連載が始まったのは2004年から、こちらも全40巻の巨編となっている。
直近では別冊少年チャンピオンにて「ビンゾー」も連載していた。

そして、実際にそのシーンが描かれたのは連載開始から五年後のことだった。その間、読者はずっと固唾をのみながら『ANGEL VOICE』を夢中になって読みふけっていったのである。あらかじめ先の展開がわかっているにもかかわらず、読者の興味を物語にひきつけ続けるということが、どれほど作者にとっては大きなプレッシャーであるか想像に難くない。だが、古谷野先生は、ネタバレよりももっと大切なことがマンガ家にはあるのだと語る。
「でもね、スポーツマンガって絶対、最後は勝つわけじゃないですか。つまり、スポーツマンガのストーリー展開は、ほとんど読者の想像通りに進むわけで、そこにいたるまでの過程をうまく見せられなかったら、それこそが作家の負けなんですね。だから結果は、前もってバレていても別にいいかなって思います」

結果、『ANGEL VOICE』はラストまでテンションを切らさないまま、七年という連載期間を駆け抜ける。そんな『ANGEL VOICE』の中で、もっとも好きなキャラクターと、いちばん造形に苦労したキャラクターを古谷野先生にたずねてみた。
「好きなキャラクターは、やっぱり主人公の成田(成田信吾)になるのかなあ。(主人公のいる)蘭山高校以外だと八津野高校の天城も好きですね。スレすぎてないところがいいですよね。
苦労したキャラクターは蘭山高校の脇坂秀和。なんていうのかな、脇坂は読者にいちばん近い考え方をするキャラクターにしたかったんですよ。だから、ほかのキャラは超人であっても天才であってもいいんですけど、脇坂だけは読者からあまりズレないように、ものすッごく気を遣いましたね。
最終回、脇坂のエピソードでいくっていうのは、ギリギリまで決めていませんでした。でも、最後をどうしようと考えたときに、いちばん自然なのがやっぱり脇坂で締めくくることかなあと思ったんですね。それで、最後はああいう終わり方になりました。ほかのエンディングを考えないこともなかったんですが、話がどこまでも続いていきそうになっちゃうんですよね(笑)。成田とかでやったらヤバい。話が続いちゃう」

さらに執筆中、もっとも印象深かった思い出をたずねたところ、古谷野先生からは「なにも覚えてないんです」という返答が苦笑いとともにかえってきた。
「とくに最後のほうは、ほとんど意識飛びながらやってたので。ひたすら『眠い!』というだけでしたね。連載途中でデジタルになって助かりましたけど、それまでは本当にキツかった。
もう寝ぼけて描いてることが多かったので(笑)コマの中に、わけのわからないラクガキがいっぱいあるんですよ。試合中のはずの選手が手にタオルを持ちながら走ってたり(笑)。そのときのことは明確に覚えてますよ。『タオル、うまく描けてるなあオレ…………って、なんでタオル持って試合してるんだよッッ!』って。完全に、寝ぼけていたんです。仕方ないから、ホワイトで修正しました。結構、いいタオルのシワが描けてたんですけどね(笑)」。

チャンピオンが一番インパクトのある雑誌

『ANGEL VOICE』の完結から五年、待望の新作については、こんな答えがかえってきた。
「スポーツは、もう描きません。考えているのは現代物ですよね。現代物の、ファンタジーよりっていえばファンタジーよりの世界観のものかな。ちょっといま詰まってるんですけど、もうすぐできるかなっていう感じです。年内には、ということにしておいてください(笑)。具体的には春くらいまでにはメドついてればいいんですけどね。ただ、決まったら決まったで、その時点から取材や資料集めなどがはじまるので、まだまだ時間はかかると思います。楽しみにしていてください」

最後に、50周年をむかえる週刊少年チャンピオンへのメッセージを古谷野先生にお願いした。
「やっぱりね、チャンピオンがいちばんインパクトのある雑誌であることは間違いないんですよね。マンガを読みはじめた頃に、いちばん勢いのある雑誌は、間違いなくチャンピオンでした。それをね、またね。その雑誌で自分も描けるようになったからには、自分たちの世代でまた、そのポジションまで戻せたらね。本当にそうなれば、それが理想だと思います。ともあれ、自分らもまだまだがんばるし、あとは若い人にも(笑)、ということでしょうか」
いち読者としては、古谷野先生のいちはやい新連載を願うばかりである。できれば年末よりも早く(笑)。