2019.04.04

“木曜日のフルット” 石黒正数先生
レジェンドインタビュー

ふわっと!クスッと!愛され続け、週チャン巻末の顔となった本作。
石黒正数先生が切れ味バツグンのコメントを本誌読者の皆に届けてくれたぞ!!

気付いたら10週どころか10年たっていた週刊連載

今年で丸10年。大好評連載中であるダメかわいい猫マンガ『木曜日のフルット』の石黒正数先生に『週刊少年チャンピオン』で連載を始めた経緯、そして思い入れを持っていた漫画のいろいろなエピソードを語ってもらった。
「そもそも別の雑誌で連載していた『それでも町は廻っている』を見た『週刊少年チャンピオン』の編集さんからずっと連載やりませんかという打診が来ていたんです。『連載やっているから無理です』と断り続けていたんですが、あるとき次の巻末マンガの枠の漫画家さんが見つかるまでの10週でいいから描いてくれないかと頼まれ、見開き2ページだし、週刊少年誌で連載したことがあるという実績ができるのもアリかと思って引き受け、気付いたら10週どころか10年たっていたわけです」

長期連載をしようと始めたのに途中で打ち切りになるケースはままあるが、10週だけのワンポイントリリーフとして始めたはずなのに、気づいたら10年続いたというのだ。
「10年やってますが、3年間くらいの感覚ですね。必死ですから。週一でネタ出ししなくてはならないので、脳の筋トレみたいになってます。その週に思ったこととか、見聞きしたことがネタになっている場合も多いので半分エッセイみたいな感覚もあります」

そんな石黒先生は『週刊少年チャンピオン』を隅から隅まで読み込んでいる。
「〝情報エクスプレス〟のミュージシャン紹介では大抵『刃牙』のファンって書かれているんですけど、15年に紹介された“go!go!vanillas”ってバンドのメンバーが『フルットのファンです』って言ってくれていて。
もう、めっちゃ嬉しかったですよ。その記事を切り抜きで今も保存してありますから」

石黒先生は、その記事だけではなく、読者のイラストコーナーでフルットが描かれたものもすべて綺麗に切り取って、ファイルにきちんと保管しているのだ。
「ある読者さんから頂いたお手紙に、3歳の息子さんが描いてくれたフルットのイラストが入っていて、あれは嬉しかったですね。話の内容がわからなくても造形だけで人の目にとまる事を意識して作ったキャラクターなので、フルット達は」

これも全て少年チャンピオンのおかげです

ファンを大切にする純粋な心を持つ石黒先生だからこその温かいエピソード。そんな石黒先生に『週刊少年チャンピオン』のファンだった時を振り返ってもらった。
「一番思い出深い少年チャンピオン・コミックスは『その気にさせてよ?myマイ舞』(山口譲司先生)ですね。エッチな漫画なんですが、ありがたいことにやっぱり少年漫画なんですよ。見た目もサイズも。買い易いですよね。エロを手に入れることに腐心しまくりな少年にとっては。おかげで全9巻揃う頃には達観しましたよ。
本屋でエロを買うことに抵抗がなくなったんです。
昔から引いた視点でものを見ることを心がけていた事もあって、売れるということは本屋さんにとっても嬉しいこと、買ってもらうために本を置いているので、それを恥ずかしいとか思うことはないんじゃないかなって気付かされました」

突然、達観した中学生の石黒少年は、ちょっとハード目のエロ漫画も普通にレジに持って行って買うようになった。小学生の時に『その気にさせてよ?myマイ舞』を通過した石黒少年にとって、他のエロ漫画なんかお手のものだった。
「90年代はエロ漫画が流行っていて、本屋のエロ漫画コーナーに付かず離れずいて様子を伺っている同年代の客が必ずいたものです。興味がないフリをしながらチラチラ品定めする、あれがすごく情けなく思え、『俺に任せろ』という気持ちで堂々と成人コーナーに立つようになりましたね。これも全て少年チャンピオンのおかげです」

石黒正数●いしぐろ まさかず

2009年に本誌で「木曜日のフルット」の連載を開始。当初は短期集中連載の予定だったが、そのまま本連載に昇格。
別冊少年チャンピオンでも「別冊 木曜日のフルット」(2009年~2018年)を連載していた。そのほか代表作に「それでも町は廻っている」(少年画報社・刊)や、宝島社「このマンガがすごい!2019」オトコ編第1位の「天国大魔境」(講談社・刊)などがある。

昔は漫画派だったのが、途中から実写派になって、その後、どっちでもよくなるほどの柔軟性を身につけた石黒先生はとにかく、『週刊少年チャンピオン』の漫画をジャンル問わず、こよなく愛し続けている。そしてその雑誌でご自身も連載を続けている感想を聞くと。
「なにせ『木曜日のフルット』はオマケのような巻末漫画なんで、今回インタビューの打診に躊躇したんですけど、50周年の折に巻末漫画にもスポットライトを当てる感じも少年チャンピオンらしいと思って受けさせていただきました。
巻末って実は非常においしいんですよ。少年誌の掲載順って人気のバロメーターとして見られる面があるんですが、巻末固定だから前に行ったり後ろに行ったりしないから、自分のテンションが安定するんです。
最近、俺の漫画の掲載順後ろの方だなと思うとテンション下がって作品にも影響をきたすんです。その点だけはフルットは無敵でした」
どんなことがあっても『よくあることさ』って強がれるカッコよさ、痛みを共有できるやさしさ、それがチャンピオンのよさだと思います」

秘密の箱を覗いているかのような感じが
チャンピオンの魅力

石黒先生は、常に読者目線で『チャンピオン』を読んでいるという。
「めんどくさい読者の感覚で読んでいますね。雑誌を丸ごと愛する読者は半ば編集サイドみたいな目で読むようになる。漫画を楽しむと同時に雑誌の売り上げを心配しだす、あの感覚です。愛と客観性を同時に保てますからね。『木曜日のフルット』でチャンピオン読者ならわかるチャンピオンネタをパロディとして使う時の基準になります。『刃牙』ネタはとくによく使いますね」

『刃牙』シリーズのことを話し出したら年末までかかってしまうということで早々に切り上げたが、石黒先生の『刃牙』愛は凄まじかった。
「また『弱虫ペダル』も好きで、箱根学園の荒北靖友への重い愛は作者の渡辺先生ご本人にも認識されてしまっています」

ご自身がファンだった『週刊少年チャンピオン』で連載10年を達成された石黒先生にとって50周年はさぞ格別な思いがあられるのではと思ったが、意外な答えが返ってきた。
「単行本派なので自分が連載を始めるまでは雑誌はあまり読んでなかったです。週単位で色んなストーリーを追うのが苦手で、ドラマとかも来週まで待ってられないタイプなんです。でも自分が連載を始めてからはずっと読んでいます。 『刃牙』、『弱虫ペダル』、そして、昨年連載が終わった『ドカベン』が中心にあって、ここ10年は誌面に劇的な変化がない。誌面の安定は良いことでもあり、悪いことでもあります。もう1本くらい怪物級の漫画が生まれると良いですね。『週刊少年チャンピオン』の自由さは良いふうに出るときもあるし、見切り発車気味になるときもある。とにかく変なふうにとんがっているところがありますね。昔から他の少年誌では見られない物が見られる変な期待感があった。その秘密の箱を覗いているかのような感じが少年チャンピオン・コミックスの魅力でしたね。」

最後に、50周年記念として読者へ向けてメッセージをいただいた。
「きっとめんどくさい読者が読んでいると思うんですけど……、まあ、めんどくさい読者の諸君!何年先まで見ていけるのかわからないですけど、『週刊少年チャンピオン』が続く限り、めんどくさく読んでいこう!」